ダイビングの基礎知識
ダイビングの事故を防ぐために
耳・鼻との関係について
ダイビングで頻繁に起こる事故は、耳抜きができないことにより起こることが多いといえます。実際耳抜きできなくて潜ったために、耳が痛い・中耳炎(潜水性中耳炎)・耳閉感・鼓膜穿孔・めまい・難聴などの症状を起こすことがあります。
また、耳抜きが出来ないことや、ダイビングによるトラブルは、ライセンス習得時や習得後間もない時期に起こりやすい傾向にありますが、その反面、数100本を越えるベテランの方にも障害が起こることを経験します。
Ⅰ.耳抜きについて
一般に、耳抜きの方法には、バルサルバ法を実施することが多いといえます。
これは、ダイビングライセンス習得の際に、まずプール実習でまず習う、鼻を摘んで力んで鼻腔内の内圧を高め、耳管を通して中耳腔に空気を送る方法です。
しかしながら、この、バルサルバ法は、中耳腔に急激に圧力がかかる為、耳管周囲のうっ血.・腫脹などを引き起こしやすいという欠点があります。その後、耳抜きが出来なくなったり、浮上時、リバースブロックを起こす原因にもなります。
これに対し、フレンツェル法・トインビー法は、つばを飲みこむことにより耳管を開かせ、中耳に空気を送り込むという方法です、これは耳管に負担をかけない、より安全な耳抜きです(おそらくみなさんは、インストラクターの人が鼻をつまんで耳抜きをしているのを見たことは、まずないと思います。)しかし、最初から、このフレンツェル法・トインビー法を習得するのは、コツが分かりにくいこともあり、大部分のダイビングスクールで、最初バルサルバ法を習うことが一般的と思います。
Ⅱ.水圧と中耳腔の関係について
中耳腔へかかる圧力は、水面で1気圧のものが、10mまで潜ると2気圧にと、最初の10mの潜水で、気圧は2倍へと急激に変化します。
①耳管は0.7m潜ると、鼓膜は水圧により痛みを感じると言われています。
②耳抜きが出来ないまま、水深が1.2mを超えてしまうと、耳抜きをしても耳管は通気ができなくなり障害を引きおこすことがあります。
③そして、この状態を超えてさらに水圧がかかると、鼓膜穿孔・潜水性中耳炎などを起こす危険性があります。
Ⅲ.ダイビングで起こる耳・鼻の症状
耳抜きが出来ず潜ることにより起こる障害には、
- 耳痛
- 中耳炎(潜水性中耳炎)
- 耳閉感
- 鼓膜穿孔
- 外耳炎(海水は細菌の繁殖を促し炎症を起こしやすい環境にします。)
- 平衡障害(めまい・吐き気)
- 難聴(内耳障害)(いわゆる突発性難聴と同じ症状)
- 副鼻腔のスクイズ
- リバースブロックによる内耳障害
- 外リンパ瘻(内耳窓破裂)
などがあります。
耳鼻咽喉科での検査は、
- 鼓膜所見
- 耳管機能検査(チンパノグラム)
- 聴力検査
- 平衡機能検査
を実施します。
Ⅳ.耳管機能不全(耳抜きが出来ない)に対する対策
これらの障害を防止する為には、
- 耳抜きを出来ない状態で無理に潜らない!
- 風邪気味・アレルギー性鼻炎(スハウスダスト・スギ花粉症の増悪期)には、事前に治療をして、あるいは耳管機能検査をして、耳抜きが確実に出来ることを確認して潜る。
- 耳抜きを練習して、耳抜きをしやすくなるようトレーニングすることといえます。
日常やプールで、耳抜きを繰り返し練習する(急性鼻炎・副鼻腔炎の時は実施しないで下さい、急性中耳炎を誘発することがあります。)ことも効果的と考えられます。 - しかし、鼻炎・アレルギー性鼻炎・耳管機能に問題がある場合は、耳鼻咽喉科専門医、特にダイビングと言う環境を熟知している専門医への受診を勧めます。
Ⅴ.リバースブロックについて
ダイビングの障害は、浮上の際にも起こります。浮上に伴い、中耳腔の空気は耳管を通して逃がされ、外気圧と平衡をたもとうとしますが、潜行中に起こった耳管通気のトラブル等によって起こった耳管粘膜や耳管周囲の腫脹・炎症は、耳管機能障害を引き起こし、中耳腔の空気の排出を妨げることにより中耳腔内圧を上昇させ、鼓膜を外耳道側へ圧迫し、内耳(三半規管(平衡機能)・蝸牛(聴力))の障害を引き起こし、めまい・耳閉感・難聴などを引き起こします。
Ⅵ.減圧障害について
減圧障害には、大きく分けて2つのタイプがあり、
- 減圧症(DCS)
- 空気栓塞症(エアエンボ:AGE)
があり、共に潜水の浮上の際、身体内に溶け込んだガス(窒素・空気)が気泡化することにより発生します。
代表的な症状としては、頭痛、吐き気、だるさ、かゆみ、発疹、しびれ、めまい、重症となると、歩行障害、意識障害、視力障害、麻痺などの症状を引き起こします。
これを防ぐためには、安全停止を確実に実施することが最も大切と言います。
また応急手当として有効なのは、酸素吸入です、治療としては、高圧酸素治療が必要とされます。
Ⅶダイブコンピューターについて
最近では、ほとんどのレジャーダイビングで、ダイブコンピューターを使っていますが、ダイブコンピューターを100%信頼しても、減圧症は発生することがあります。やはり確実な安全停止が重要と言えます。
Ⅷ安全停止(セーフティ・ストップ)について
減圧症を防ぐため、水深3-7mで3-7分の間、海面浮上までに一時待機が必要であり、体内からの窒素の洗い出しが効果的な、水深3-7m・平均5分間を目安に行われることが一般的です。
Ⅸ.飛行機による気圧変化のリスクについて
ダイビングの後、飛行機に乗る場合は、原則として20時間から24時間、間隔をあけることが推奨されています。
通常、客室内の気圧は、標高1800mから2400mに相当する高度で、0.81-0.75気圧の低気圧環境になると判断されます。しかしながら、潜水医学の領域では、標高300m以上またはそれに相当する低気圧環境を高所として判断し、減圧病を引き起こすリスクの一因となると判断するのが、世界的にスタンダードな見解とされています。
Ⅹ. 交通機関による気圧変化のリスクについて
航空機による低気圧環境の他にも、陸路により高所を移動することも減圧症のリスクとなることが研究で確認されています(DAN JAPAN 会報,Vol.38.2008.4など)。
実際、関東のダイビングスポットである伊豆からのダイビングの帰路として、渋滞回避の手段として高所移動のルートを選択することが良くあります。伊豆スカイライン・箱根ターンパイク・西伊豆バイパスなどの高地は、標高1000mを越える箇所もあり、減圧症発生のリスクを高める危険性を持っていると言えます。
XI.海外でのダイビングの注意点
リゾート地でのダイビングで、トラブルの原因は、
- 言葉の障害
- 器材(アルミタンクの使用)の違いなど
- ショップの選択
があります。
特にリゾートに、日本人インストラクターが常在しているかは、メールで問い合わせれば確認が出来ます、また事前より的確な情報の入るHP・対応をしてくれるショップ・スタッフがいることが確認できれば、現地に入っても安心といえます。
XⅡ.ダイビングに対する医療援助システムについて
現地での緊急サポート体制のほかに、DAN JAPANが、緊急連絡網を構築しています。
また、DDNETという“緊急医療援助システム”もネットワークを組んでいます。
★DDNETについて★
DANJAPAN(レジャー・スキューバ・ダイビング事故者に対する緊急医療援助システム)
の会員で、スキューバダイビングに理解のある医師によるネットワークからなるサービスです。詳しくは、下記アドレスをご覧下さい。
http://www.danjapan.gr.jp/
ダイビングにかかわる疾病の診療はスキューバダイビングに理解のある医師にかかったほうが何かとスムーズです。そんなとき、役に立つのがDDNETです。
DDNETは、スキューバダイビングに理解ある医師のご協力により、ダイビング前の健康診断、ダイビングが原因と思われる体のトラブル等の診療にご利用ください。
XⅢ.ダイビングに使用する治療薬・市販薬・診断書等について
現地に行ってから、風邪気味で市販薬・ドリンク剤を急に使用した。女性の場合、生理痛などで市販薬を使用するなど場合、薬の内容により影響が出る可能性もあり、注意が必要であり、事前に、ダイビングを理解した専門医に診察してもらい、処方された薬の使用のほうが安全と言えます。
また、水深数10mという環境下、地上では何の弊害のなかった薬が、肉体的・精神的に通常状態とは異なる環境下においては、影響を及ぼす可能性もあります。ボートダイビングのために使用する酔い止めの薬も、潜水中、予期せぬ影響を及ぼす可能性があると言えます。
また、海洋実習の数日前に医療機関を受診し、治療薬を使用し、いきなりダイビングすることは、リスクが高すぎます。すくなくとも、数回受診し、使用薬剤が合わない・眠いなどの支障がないかを確認した後、コンディションを改善した状態で、ダイビングすることを勧めます
また、耳・鼻・その他の内科疾患がある場合には、講習やダイビングをすることを許可するか、メディカル・ステートメント(病歴・診断書:各団体の所定のものなど)が必要なこともあります。
XⅣ.耳抜きを上手にやるコツ!
一般的に言われていることとしては、水圧差が生じて耳が痛くなってから、耳抜きをするのではなく、水深の浅いうちから、1~1.5m位の潜行に1回くらい頻回に、耳抜きが出来ていることを確認しながら、潜行するのが良いとも、言われています。(また、良いダイビングサービス・スタッフ・を見つける、信頼できるグループで参加する、またブランクのある場合、少数のグループでサポートしてもらうなどのことも役立つと思われます。)
図
XⅤ.ダイビングに必要な基礎体力
レジャーダイバーに必要とされる体力の目安は、最大13METS、通常8METSの運動を継続できる能力と言われており、日常から有酸素運動を実施しており、また疲れないことが条件の目安となっています。また、通常よりスイミング能力を維持するよう心がけることも大切です。
XⅥ.ダイビングの絶対的禁忌
- 狭心症や不整脈を伴う心疾患
- 高炭酸ガス血症や低酸素血症を伴う肺疾患
- 多発性肺のう胞や肺気腫
- 減圧症(エアエンボ)の既往歴
- 自然気胸
- 鼓膜穿孔
- 中・内耳の外科的手術既往
- 中・内耳の感染性疾患
- メニエール病
- 精神・情緒不安定
- アレコール依存症
- 妊娠
その他、専門医の間でも賛成・反対・条件付など意見が異なる疾患として、
- 喘息
- 糖尿病
- 動脈硬化性心疾患
- 高血圧
- てんかん既往症
などがあります。