スギ花粉症舌下減感作
(SLIT)(Sub-Lingual immu notherapy)
■キーワード アレルゲン免疫療法(allergen immunotherapy: Ag-IT) スギ花粉症舌下減感作(SLIT) 舌下免疫療法 皮下減感作療法 健康薬品 ダニ舌下免疫療法
◆最近、スギ花粉に対する舌下免疫療法が、注目されてきています。 アレルギー性疾患に対する根本的な治療法はまだ確立されていないため、現在、薬物による治療法は、全て対症療法(症状をおさえるための治療)であり、治療薬がなくなると症状はまた元に戻ってしまいます。このため、アレルギー疾患は『治らない疾患』と思われがちです。
◆これに対し唯一、免疫治療という治療法は、アレルギーの発症を、免疫的に抑制する、 すなわち、アレルギーの原因(ハウスダスト、スギ、真菌など)に対する個人の持つ過敏性を、自分の免疫で抑制してゆく、発症しないように変えてゆくという、根本的、根源からの治療法と言えます。
◆食物アレルギーに対しては、これまで除去食療法を中心に進められてきましたが、近年、積極的な治療として免疫療法が注目されてきています。すなわち、ミルク・鶏卵・魚・ナッツ等にアレルギーを持つ人に対し、原因物質を非常に微量にしたものから徐々に増量してゆくとアレルギー症状の発現が寛解したという結果が出てきています。
◆免疫治療の位置付け
【WHO見解書:1998】でも『アレルギー免疫療法は、喘息・アレルギー性鼻炎に対し、根治が望める、また修飾できる唯一の治療手段』と根本的治療として位置づけられています。
◆免疫治療の歴史
①皮下免疫療法 この免疫療法は、歴史が長く、1911年Leopard Noon のイネ科花粉症(カモガヤ)に対する治療法が、『Lancet』という有名な医学雑誌に初めて報告されました。
②薬物治療 これに対し、薬物でアレルギーを治療しようとする試みはもっと遅くに始まり、アレルギー症状をおさえるために使われるようになった抗ヒスタミン薬(フェンベンザミン)は、1942年に世界で始めて販売されるようになりました。
◆日本における皮下注射減感作療法について 日本においては、これまで皮下注射による減感作療法が行われてきています。 治療薬は(トリイ製薬から発売されており)、 1963年 ハウスダストエキス 1969年 スギ花粉エキス 2000年 標準化アレルゲンエキススギ花粉 (これまでの治療エキスに改良を加え治療効果を高めた治療薬)
その他の治療用エキスが発売されています。

◆現在行われている皮下減感療法の長所・短所について (長所) 1.『アレルギー免疫療法は、根治が望める、また修飾できる唯一の治療手段』と、根本的治療と位置づけられています。【WHO見解書:1998】
その反面、 (短所) 1.治療のため多くの回数の通院・期間が必要である。 2.注射による投与であるため局所の痛み・腫れをともなう。 などがあるため、この治療法を実施する施設は少ないのが現状です。
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◆◆◆舌下の免疫療法について◆◆◆ |
◆舌下免疫療法の歴史
最初の治療法は、1990年、イタリア・スペインのグループが、皮下の減感作療法のために使っていた注射用エキスを、経口に投与し治療効果が得られると発表した事が初めと思われます。
その後、ヨーロッパ、アメリカなどで、花粉症(カモガヤ、ブタクサ、樺の木)、ハウスダスト(ダニ)などに対し、大人のみならず小児に対しても、この舌下の免疫療法は有効であるとの報告が見られるようになってきました。しかし、1990年台には、この治療法が本当に効果があるかどうかは、専門家のなかでも意見の分かれることが多く、「効果的であるという結果」と、「有効とは判断できない」との意見の異なる判断がなされていました。
その後、より客観的な判断として、【WHO見解書:1998】が出され、舌下免疫療法も『喘息・アレルギー性鼻炎に対し、根治が望める、また修飾できる唯一の治療手段』と報告されました。
その後、日本においては、2003年ころより、標準化アレルゲンエキススギ花粉を、欧米で治療効果が確認されている方法と同様の方法により、舌下の投与による治療法が試みられる様になってきました。 その後の、2009年10月には、東京都の施行した2年間にわたる第2相臨床試験の結果が発表され、約70%の有効性が確認されています。(東京都福祉局) 【参考WEB】
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kanho/kafun/torikumi/SLIT_houkoku.pdf

これまでは、【舌下吐き出し法】という方法が取られ、パン屑を舌下に置き、ここに治療用スギ花粉エキスをたらし、2分間保持して、その後、吐き出すという方法で実施されました。 今後、【舌下嚥下法】という、舌下に滴下した治療用エキスを飲み込む方法も検討比較される予定です。
◆今後、2010年秋より『第3相の臨床試験(治験)』の実施が予定されています。
【参考WEB】
http://www.torii.co.jp/release/2010/100708.html

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1週目 |
2週目 |
3週目 |
4週目 |
5週目 |
6週目 以降 |
維持期間 |
濃度 |
2JAU |
20JAU |
200JAU |
2000JAU |
2000JAU |
2000JAU |
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1回目 |
1滴 |
1滴 |
1滴 |
1滴 |
20滴 |
20滴 |
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2回目 |
2滴 |
2滴 |
2滴 |
2滴 |
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3回目 |
3滴 |
3滴 |
3滴 |
4滴 |
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4回目 |
4滴 |
4滴 |
4滴 |
8滴 |
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20滴/2週 |
5回目 |
6滴 |
6滴 |
6滴 |
12滴 |
20滴 |
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6回目 |
8滴 |
8滴 |
8滴 |
18滴 |
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7回目 |
10滴 |
10滴 |
10滴 |
20滴 |
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(参考) スギ舌下減感作 臨床第2相試験による投与スケジュール(東京都福祉局 2009年10月発表) |
【参考WEB】 http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kanho/kafun/torikumi/SLIT_houkoku.pdf
・すなわち、スギ花粉症の季節前より増量し、花粉シーズンには維持量にまで達しており、その後、季節中からは、2,000JAUを20滴の滴下を週1回、季節後には2週に1回、続けるという方法です。そして、今後この投与法は、今後の治験また治療実施後も改善され変更がなされると思われます。 ・ ◆長所 ①短期間で維持量まで増量できる ②重篤なアナフィラキシーなどの副作用は報告されていない。
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◆作用機序(効果発現のメカニズム) 免疫療法が効果を発現する原因については、まだ解明されておらず、いろいろのメカニズムが関係すると言われています。
すなわち、 1.TH1/TH2バランスの是正 2.制御性T細胞の誘導 3.T cell anergy 4.抑制性サイトカインの産生 5.遮断抗体としてのアレルゲン特異的IgG4抗体産生の発現 6.免疫的寛容 などがおこり、アレルギー反応を抑制していると説明されてきています。
◆問題点 1.副作用の発現について ①腹部症状(嘔吐、腹痛、下痢など) ②口内、口唇のかゆみ・浮腫 ③蕁麻疹 ④喘息発作 などの報告があります。 2.現在の皮下減感作用治療エキスは、注射でのみ治療が認可されている物なので、舌下免疫治療のために、舌下治療用エキスが新たに申請し認可される必要がある。 3.舌下免疫療法では、現在の皮下減感作療法の約10倍からそれ以上の量のスギ抗原を入手が必要となる。 などがあります。 |
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4.健康薬品で販売される“スギ花粉カプセル”を飲んで起きたショックの報告があります。 (実例) 2007年和歌山で49歳、女性(スギ花粉症:17歳より、既往症:なし)が、 スギ花粉カプセル「パピラ」を服用し、運動(テニス)をしたところ、摂取約20分後、 口唇・眼瞼の腫脹、蕁麻疹が発現し、救急外来受診、その後、アナフィラキシーショックをおこし、気管が閉塞し意識不明状態に陥ったため、気管内挿管し対症療法を実施し、治療により意識を回復した。 という事件が起こっており、健康薬品の安全性が問題となりました。 この事件を契機に、厚生労働省により、「健康薬品」の安全性に対し見直しがなされました。
【参考WEB】
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/02/dl/h0228-2.pdf http://hfnet.nih.go.jp/usr/kiso/pdf/sugi070227.pdf
■このような、健康薬品によるスギ花粉を飲んでショックを起こした実例もあり、経口でスギ花粉を飲めば、花粉症が治るわけではありません。治療のためには、アレルギー専門の施設を受診し、免疫療法が効果的かを判断したうえで治療方針を決定し、治療を開始しても定期的にチェックを受けることなどが必要と思われます。 |
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現在、世界的にアレルゲン免疫療法が進もうとしています。その中で、日本国民に特有ともいえるスギ花粉症の治療は、我々日本人、また海外より日本に来た外国国籍の方、日本で生まれてスギ花粉症に苦しんでいる外国国籍の方にとって、とても大切な問題です。 (スギ・ヒノキに反応する遺伝子は日本人に多い傾向はありますが、外国国籍の方にも、スギ花粉症を起こす遺伝子があることが確認されています。) これまでの免疫の研究・治療の成果により、スギ花粉症舌下減感作(SLIT)(Sub-Lingual immunotherapy)が効果的であることが分かってきました。 今後、2010年7月8日、新聞等に発表のあったように、 2010年秋より、『第3相の臨床試験(治験)』の実施が、多くの大学病院、アレルギー専門施設等で予定されています。 この中で、治療薬の安全性、投与法、治療効果などが、より正確に確認され、その後、厚生労働省に医薬品として申請され認可されれば、スギ花粉症に対する新しい治療法として、実際に治療を受けられる状況となる予定です。 また、世界的には、スギ以外のブタクサ、カモガヤ、シラカバ、ハウスダスト(ダニ)抗原に対しても、免疫治療が効果的であるという報告があるように、日本でも将来、ハウスダスト(ダニ)などに対する経口減感作が実施される可能性があると思われます。 |
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当クリニックでも、長い間アレルギーの免疫治療・研究にたずさわっているため、このスギ花粉症舌下減感作に協力し、少しでも早期に良い結果が出て実際の治療が出来るよう協力・努力してゆく予定です。 今後の予定では、2010年夏には準備が整い、9月ころから、『第3相の臨床試験(治験)』が行われると判断されます。 今後、最新の情報が分かり次第、当HPでリリースします。
◎また、今後クリニックで治験を行っていく場合に、興味をお持ちの方、 参加してくださる方は、是非、お問い合わせ下さい。 ・ 【参考WEB】 ①スギ花粉症に対する舌下減感作(免疫)療法薬の国内第Ⅲ相臨床試験にかかる決定について http://www.torii.co.jp/release/2010/100708.html
②スギ花粉症およびダニアレルギーに対する新しい免疫療法の開発 http://www.allergy.go.jp/Research/Shouroku_05/18_sakaguchi_01.html |
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